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国立大学法人 群馬大学
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新着情報

抑制性ニューロンだけに外来遺伝子を発現させる手法を開発 -抑制性ニューロンが関与する精神神経疾患の研究を加速-

[CATEGORY] プレスリリース, 報道発表, 新着情報

群馬大学未来先端研究機構(群馬県前橋市)は、遺伝子治療用に利用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター※1を用いて、脳の抑制性ニューロン※2だけに外来遺伝子を発現させる手法を開発しました。血液脳関門透過型AAVベクターをマウスの静脈から投与するだけで、全脳の抑制性ニューロン選択的に外来遺伝子を発現させることが可能となります。ニューロンの信号は次のニューロンを興奮させることで伝わり、ネットワーク(神経回路)が作られています。抑制性ニューロンは、ネットワークの興奮性信号伝達を抑制性に調節するニューロン群で、学習や記憶をはじめ、脳が正常に機能するのに重要な役割を果たします。最近の研究で、抑制性ニューロンの機能不全が統合失調症などの精神神経疾患の発症に関与していることが明らかになって来ました。今回の発明により、抑制性ニューロンが記憶や学習などの正常な脳機能に果たす役割や、統合失調症などの精神神経疾患の病態の解明、さらにそれらの疾患に対する遺伝子治療研究が加速することが期待されます。

研究成果のポイント

  • 抑制性ニューロンのみで遺伝子を発現させる事ができるGAD65プロモーター※3を開発した
  • AAVベクターの静脈投与のみで全脳領域の抑制性ニューロンへ選択的な遺伝子発現が可能
  • 抑制性ニューロンが関与する精神疾患等の研究を加速させることが期待される

研究の成果

群馬大学医学部医学科6年生の星野千秋、医学系研究科の今野歩講師、細井延武准教授、及び未来先端研究機構の平井宏和教授らの研究グループは、後脳領域を含む脳の全域で抑制性ニューロン選択的に遺伝子を発現させる手法を開発しました。脳はニューロンとグリア細胞からなります。ニューロンにも様々な種類がありますが、大きく興奮性ニューロンと抑制性ニューロンに分けることができます。興奮性ニューロンが作る神経回路に抑制性ニューロンが組み込まれ、ネットワークを制御することで、複雑な脳機能の実現が可能となります。脳神経研究の多くは、マウスを使って行われますが、近年、生後?成熟後のマウスに遺伝子導入を行う際、AAVベクターがよく利用されます。研究グループはこのAAVベクターに利用できる抑制性ニューロン特異的なGAD65プロモーターを新規に開発しました。GAD65は、抑制性ニューロンにおいて抑制性ニューロンの神経伝達物質であるGABAをグルタミン酸から合成する酵素です。GAD65の遺伝子は全ての細胞に存在しますが、抑制性ニューロンだけでGAD遺伝子が転写?翻訳されます。そこでGAD遺伝子の上流域から、抑制性ニューロンだけで発現を誘導する部分をスクリーニングし、「GAD65プロモーター」と命名しました。これまでAAVベクターを用いて、抑制性ニューロン選択的に遺伝子を発現させる手段としては、Dlx エンハンサー(以下Dlx)が存在していましたが、前脳領域における抑制性ニューロンに対してのみ有効でした。GAD65プロモーターの発現特性を調べるために、血液脳関門透過型AAVベクター(AAV-PHP.B)※4を経静脈的に投与し、全脳領域での遺伝子発現パターンを解析したところ、GAD65プロモーターは前脳のみならず、後脳を含む全脳領域において、遺伝子発現をもたらすことが明らかになりました(図1)。さらに、すべての抑制性ニューロンにtdTomato(赤色蛍光たんぱく質)が発現しているVGAT-tdTomatoマウスを用いて、GAD65プロモーターの特異性を検討したところ、95%以上の高い特異性で抑制性ニューロン選択的な遺伝子発現が起きていることが明らかとなりました(図2)。

また、大脳皮質の抑制性ニューロンには様々なサブタイプが存在していることが知られていますが、GAD65プロモーターを用いると、抑制性ニューロンの中のパルブアルブミン(PV)ニューロンへの発現割合が他のサブタイプより有意に高いことがわかりました。PVニューロンは数の多いバスケットニューロンと少ないシャンデリア細胞※5に分けることができますが、GAD65プロモーターはシャンデリア細胞でよく働き、外来遺伝子を強く発現することが明らかになりました(図3)。

なお、本研究は大阪大学大学院生命機能研究科、群馬大学眼科学教室および東北大学大学院歯学研究科口腔生理学分野との共同研究により実施されました。

また、本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 基盤研究(C)および日本医療研究開発機構(AMED)革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクトの助成を受け行われました。

掲載内容

本研究成果は、2021年2月15日付の「Molecular Brain」の電子版に掲載されました。

  • タイトル:GABAergic neuron-specific whole-brain transduction by AAV-PHP.B incorporated with a new GAD65 promoter
  • 著者:Chiaki Hoshino?, Ayumu Konno?, Nobutake Hosoi, Ryosuke Kaneko, Ryo Mukai, Junichi Nakai & Hirokazu Hirai (?共筆頭著者;責任著者)
  • 掲載サイト:

今後の展開

本研究成果により、マウス全脳域の抑制性ニューロンに対して、高い特異性で目的遺伝子を発現させることが可能になりました。また同研究グループは、このような細胞種特異的プロモーターと人工miRNAをAAVベクターに組み込むことにより、細胞種特異的な遺伝子ノックダウンが可能であることもつい最近報告しており(Yasui et al., 2020, Neuroscience)、今回報告したGAD65プロモーターでも同様の方法が使えると考えられます。抑制性ニューロンの機能不全は統合失調症をはじめとした種々の精神疾患との関連が指摘されています。このような根本的な治療法のない疾患において、基礎的な研究を推進することは必要不可欠です。今後、今回の手法を脳の疾患の基礎研究に応用し、新たな治療法の開発に結びつけて行きたいと考えています。

また、今回報告したGAD65プロモーターは遺伝子サイズが約2.5 kbとやや大きいという特徴があります。このためAAVベクターのパッケージング限界や、他に必要な発現カセット等を考慮すると、最大でも1.3 kb程度までの遺伝子の発現にしか利用できません。今後、本プロモーターの短鎖化を行う事により、さらに応用範囲を広げたいと考えています。

用語説明                      

[*1]アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター:ウイルスを遺伝子のベクター(運び屋)として利用するウイルスベクターの1種です。ウイルスの高い感染能を利用して、高効率な遺伝子導入が可能です。AAVは元来病原性を持たないウイルスであるため、安全性が高いとされ、近年治療用遺伝子のベクターとしても利用されています。

[*2]抑制性ニューロン: 脳の神経細胞には、大きく分けて神経細胞の活動を上げる興奮性ニューロンと、活動を下げる抑制性ニューロンが含まれています。興奮性ニューロンばかりが働くと過活動となり、てんかん等の状態が引き起こされることになるため、脳内では抑制性ニューロンが適切に働き脳の活動を制御しています。

[*3]プロモーター:細胞内の遺伝子の発現はプロモーターによって制御されています。それぞれの細胞で必要な遺伝子が、それぞれの遺伝子のプロモーターの働きで発現されます。今回のGAD65プロモーターは抑制性ニューロンのみに発現しているGAD65のプロモーター領域を人工的に取り出し、GAD65プロモーターとして使用しています。

[*4]AAV-PHP.B:近年開発されたマウスの血液脳関門を透過し、脳内に高効率に入り込むことができる特殊なAAVベクターです。マウスへの静脈投与により脳全域に遺伝子導入が可能であるため、脳神経科学研究のツールとして利用が拡大しています。

[*5]シャンデリア細胞:大脳皮質の抑制性ニューロンサブタイプであるパルブアルブミンニューロンの中で、さらに細かいサブグループに含まれる抑制性ニューロン。近年、統合失調症との関連が指摘され、注目が集まっています。?

研究者からのコメント

本研究は医学部医学科生である星野千秋さんが主体となって実施しました。星野さんは入学したばかりの1年生の時から当研究室で熱心に研究を継続してきました。研究には困難がつきもので、途中で何度か研究テーマの変更を余儀なくされましたが、なんとか卒業前に出版に至りました。今回の論文は受理されるまで、2度の改訂を審査員から要求されましたが、星野さんにとって大変な時期と重なりました。1回目の改訂は卒業試験の時期に重なり、2回目の改訂作業では医師国家試験の10日前にもかかわらず顕微鏡に向かっていました。昨今、基礎研究に興味をもつ学生が激減している中で、貴重な存在であり、将来が多いに期待されます。

群馬大学ウイルスベクター開発研究センターでは、当研究室が主体となって運営しているAMED革新脳ウイルスベクターコアを通じて、国内外の研究者にAAVベクターを配布しています。今回開発したGAD65プロモーターを搭載したAAVベクターも今後配布していく予定です。本プロモーターを用いた研究に興味がある方は、気軽にご相談いただければと思います。(今野)

プレスリリース

関連リンク

本件に関するお問合せ先

群馬大学大学院医学系研究科 教授
未来先端研究機構ウイルスベクター開発研究センター長
平井 宏和
TEL:027-220-7930
E-MAIL:hirai@gunma-u.ac.jp

群馬大学大学院医学系研究科 講師 
今野 歩 
TEL:027-220-7934
E-MAIL:konnoa@gunma-u.ac.jp

群馬大学研究推進課未来先端研究支援係 係長 
三好 京子     
TEL:027-220-8116
E-MAIL:kk-kensui4@jimu.gunma-u.ac.jp 

 

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